2015年6月1日月曜日

水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル Yellow Archangel: June 2015


水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル(ツルオドリコソウ)

夏の始まりを告げる黄色い天使 

(Lamiastrum galeobdolon, Order: Lamiales, Family: Lamiaceae, Genus: Lamium )

(シソ目、シソ科、オドリコソウ属)



6月は、初夏から夏への変わり目です。薄青紫のブルーベルや、純白のワイルドガーリックの花のじゅうたんが、5月の末にかけて色あせて消えていくと同時に、森の中は若々しい緑に覆われていきます。その清々しい緑の森のまわりや、生け垣、原っぱは、次第に鮮やかな夏の花に彩られていきます。

イエロー・アーチエンジェルは、古くからある森の端や、生け垣の日陰に生えています。5月に紹介したハーブ・パリスほどではないですが、それでも貴重な野草の一つです。

シソの仲間なので、日本でもおなじみの青じその葉っぱにも似ていますが、もっと小ぶりです。。近寄ってみると、細かい毛が葉の両面、茎に生えています。雰囲気や大きさは、やはり同じシソの仲間に入る、ミントにさらに似ています。シソやミントのように小さな花とは違い、イエロー・アーチエンジェルはクリーム色のぷっくり丸いつぼみが、ふくらみ、笠つき、赤茶色の模様入りのアームチェアのような花をつけます。茎の周りにぐるりと外向きに、何重にもクリーム色のアームチェアが並んでいるのは、かわいらしいです。想像好きな私は、このアームチェアに、花の妖精たちがしばし羽を休めるために座る姿を思い浮かべます。

イエロー・アーチエンジェルと同じく古代野草のエノキグサ科のドッグス・マーキュリーのぎざぎさしたちょっと三つ葉にも似た緑の葉、濃いピンクの花を咲かせるナデシコ科のレッド・キャンピオン(イギリス英語発音では、カンピオン)、薄紫の花を咲かせるシソ科のグラウンド・アイビー(和名はカキドオシとなっていますが、ウィキペディアの写真は、私の見る実際の花とはちょっと違います)などの間に、イエロー・アーチエンジェルは、日陰になった場所のあちこちにかわいい花を咲かせます。

イエロー・アーチエンジェル。私の持っている20世紀初期に活躍した女流イラストレーターでありナチュラリストであったエディス・ホールデン(Edith Holden)(4月のウッドアネモネ編で紹介しています)の挿し絵入りの本、The Nature Notes of An Edwardian Lady と The Country Diary of An Edwardian Ladyには、異なった名前で掲載されています。Yellow Weasel Snout ー イエロー・ウィーゼル・スナウト。植物としての和名はわかりませんが、直訳すれば、黄色のイタチの鼻。う〜ん、イタチの鼻に例えるには、かわいらしすぎる色と形です。

アーチエンジェルとは、キリスト教では、位の高い天使、大天使を意味するようです。黄色い冠をかぶり、緑の翼をもった天使のようにも見えませんか? 個人的には、こちらの方が好きです。私の持っている現代の植物図鑑には、イエロー・アーチエンジェルの名前で掲載されています。ラテン語の学名は変わらずとも、日常に使う呼び名は、時代とともに変わっていくこともあるのでしょうね。

よく似た外観をもつ、白い斑が緑の葉に入った、Variegated Yellow Archangel(斑入りイエロー・アーチエンジェル)があります。これは、園芸用に交配された種類ですが、種があちこちに飛んで簡単に増えていくので、庭や公園を越えて野性化しているそうです。野草保護団体の一つ、Plantlifeが、他の野草を侵害する植物として警告しています。(1981年に発布された英国の野性生物および田園地帯に関わる法令の中にあると書いてあるのですが、見つけられませんでした)

我が家の近くに、数十年前まで石灰石の採石場だった場所にできた公園があります。さまざまな草木が茂る、緑豊かな公園ですが、興味深いことに、イエロー・アーチエンジェルや、5月に紹介した、ハーブ・パリスなどは、まったく見かけません。

大昔に誕生した小さな森が、長い時間をかけてさまざまな植物や動物たちが加わったり、消えていったりしながら、現在の森を作り上げてきたわけです。その中でイエロー・アーチエンジェルは、古代の森の証となる植物と言われているのは、ずっと昔から、森と一緒に生存してきたからでしょうね。