長月ー9月:セイヨウヤブイチゴ
(黒イチゴ)
黒いイチゴを採りに野原へ
(Rubus fruticosus, Order: Rosales, Family: Rosaceae, Genus: Rubus )
(バラ目、バラ科、キイチゴ属)
(バラ目、バラ科、キイチゴ属)
セイヨウヤブイチゴ、「bramble 」(ブランブル)は英語ですが、これはゲルマン語(おそらく、ドイツ語などをはじめとする西ゲルマン語)の「brom」(ブロム)から派生した言葉だそうです。これは、「トゲのある灌木」を意味します。(アデーレ・ノゼンダーAdele Nozendar著 The Hedgerow Handbook, Square Peg出版, 2012) ドイツ語では、「Brombeeren」(ブロムベーレン)と呼びます。ブランブルは、そのつやつやした、ほとんど黒に近い紫紺色の実から、ブラックベリーとも呼ばれます。日本のケーキやデザートにもよく使われ、ブラックベリーと呼ばれる方が馴染み深いでしょうね。
ブラックベリーは、8月の初め頃から色づき始めます。花が終わった後、実が大きくなってきて、黄緑から徐々に赤、ワインレッド、紫、最終的には黒に近い紫色に熟します。この辺りでは、8月半ばあたりから9月いっぱいまで、お天気が良く乾燥した日が続けば10月まで、収穫を楽しめます。ここ南ウェールズでは、とても一般的な野性の食材の一つだと思います。
ブラックベリーの果実、正確にはたくさんの小さな果実が集まった「集合果」と呼ばれるそうです。「核果」と呼ばれるものは、実のまん中に種があるモモやサクランボ、アーモンドなどのような果実を指します。ブラックベリーは、その小型、「小核果」がたくさん集まった果実。ラズベリーもそうですが、ぷちぷち丸い個別の実の中には必ず小さな種が入っています。この小さな種、胃酸にも耐えるほど強者なのだそうです。実を食べた鳥や動物たちの胃の中で種だけが残り、排泄され、様々な場所へ種が運ばれていくのです。
ブラックベリーは、古くは石器時代から存在していた古代植物でもあります。石器時代の人間の胃から、ブラックベリーの種が発見されたという記録があるそうです。
そういうわけで、ブラックベリーは、野原、生け垣、ほったらかしになっている空き地、森などあらゆる場所に繁っているのを見かけます。頑強というか、どこにでも侵入していくので、手入れをさぼっていると、あっという間に庭にもはびこっていきます。いったん庭に生えると、もう大変。
とはいうものの、鋭い鉤状のトゲがついた葉や茎が私たち人間や他の動物たちを遠ざける一方で、他の動物たちを天敵などから守ってくれる役目も果たします。ミソサザイやコマドリといった小鳥や、ヤマネなどの小動物たちは、このご利益にあずかります。(The RSPB 英国で全国的に活動する自然保護団体のウェブサイト)
暖かい晴れの日が続いたら、大きな容器をもって野原へ出かけます。車や人通りがなく、陽当たりのよい静かな一角に、ブラックベリーが生い茂った場所があるのです。太陽の光をいっぱい浴びて熟した実は、ほんとうに甘くておいしいのです。が、鋭いトゲには要注意。からまった茎にひっかかると、わなにかかった動物のようにもがけばもがくほど、逃れられません。鉤状になっていますから、どこにひっかかっているかを確認して、そろっと鉤の方向へひっかかった所を戻せば、どうにかはずれます。
トゲで怪我をしないよう、分厚い長袖長ズボン、それにしっかりしたウォーキングシューズで出かけます。重厚装備をしていても、やわらかく熟した実を取るのは、素手でないと難しいので、実を摘みにいったら、ちょっとしたひっかき傷は避けられない私です。
手の届く範囲で、できる限り熟れたブラックベリーを採集しますが、陽当たり良好、大きくておいしそうな実は、トゲの森の一番てっぺん、私たちの手の届かない所にあります。小鳥たちが秋が終わるまで、これらを十分に堪能する訳ですね。うらやましいなあ、と毎度恨めしげに眺めるだけです。でも、私たちも堪能するだけの分は十分頂いているので、ぜいたくなことです。
容器いっぱいの実を積んだら、家に持ち帰り、さっそくジャム作りです。ジャム作りは、夫の担当?です。まず、小さいけれど固い種を取り除くために、ブレンダーでピューレ状にし、それを漉し器で種を漉します。それからは、他のジャム同様に、砂糖を加え煮ます。ペクチンは入れる必要はありません。
昨年の秋、ニワトコの実のコーディアル(シロップ)を作った後、ブラックベリーでもできるのではないかと思い立ち、同じ要領でコーディアルを作ってみました。熱々のシロップをガラス瓶に詰めたばかりの時点で、上出来だ!と思ったのですが。。。冷めてみると、何とガラス瓶の中でゼリーになってるではありませんか。ブラックベリーが、リンゴなどの果実のようにペクチンが豊富に含まれているとは知らなかったのです。幸いなことに、ゼリー状とはいえ、柔らかく、瓶を振ると濃いめのどろりとした液体になったので、子供たちも飲んでくれて、めでたく全部消費されました。
リンゴのクランブルといえば、オーブンで手軽に作れる英国の家庭のおやつです。クランブルは、名の通り、ぱらぱらした状態のことを指し、バターと砂糖、小麦粉のクッキー生地をバラバラくずして季節の果物の上にふりかけ、オーブンに入れると、クッキー生地の部分がこんがり香ばしく、中身の果物は柔らかく焼けます。ゴミや小さな虫などを取り除いてきれいにしたブラックベリー、それに一口大に切ったリンゴを耐熱皿に並べ、ぱらりと砂糖をふりかけます。私のクランブルには、アーモンドやヘーゼルナッツのざく切りとオーツ麦の押し麦を入れ歯触りをよくします。焼きたての熱々に、自家製バニラソースをかければ大満足。
9月に入ると、目に見えて日が短くなってきたのがわかります。雨の降る日も多くなってきます。今年の夏は、寒がりの私が暑いと感じる日が少なかったのです。つまり気温が20℃以上になる日、半袖で過ごせる日ということですね。そういう夏の後は、暖かい秋が待っているかもしれない、この辺りに住んでいる人たちは期待します。今日、9月1日は、昼過ぎまで晴れたり曇ったり。それが急に黒い雲が北西から流れてきてあっというまに、どしゃぶりの通り雨。でも再び太陽が顔を出しました。
晴天の暖かい日が続いたら、野原へブラックベリーを摘みにいきますよ。