「ブルーベルというと、皆さん、イングリッシュブルーベルと呼びますが、私はウェルシュ(ウェールズの)ブルーベルと呼びたいですね。だってここはウェールズですからね」ウェールズに住んでいると、ウェールズ愛国心に満ちた会話は、そこここで聞かれます。が、この温和な紳士から「ウェルシュ」と聞くと、すんなりと受け入れてしまいました。そういうことがあったので、彼と再会、それもブルーベルの季節に再会したのは、とても感慨深いものでした。
5分ほど、あれこれ話をしながら歩きましたが、しなやかな体で飛び跳ねるグレイハウンドの女の子を連れた紳士とは、森の入口でお別れです。紳士は、犬と陽当たりのよい森の外側の道を、私はブナにおおわれた丘にある森の中のブルーベルを見たいので。
「また、いつか近いうちにお会いするかもしれないですね」
とお互いに挨拶をして別れました。
ブルーベルの花を見つける前に、白く可憐なウッドアネモネの群生に出会いました。
アネモネの原種でしょうか、この小さな可憐な白い花は、直径で4センチもあるかないかというくらいです。しかし、どっこい、結構強いらしく、森の中に圧倒されるほどいっぱい咲き誇っているのです。
ウッドアネモネの群生をいくつも越えていくと、ぼちぼちとブルーベルのうす青い幻想的な花が現れてきました。丘の上部は、まだまだ咲き始めです。丘の上で、ちょこちょことスケッチしました。ブルーベルの咲く時期は、ほんの数週間ですから。
丘を下っていくと、ブルーベルが満開の場所へ出ました。そして、嬉しいことに、去年と同じ場所に、「白い」ブルーベルがありました。なぜか、こういう場面に遭遇すると嬉しいのです。子供の頃から、白いレンゲや4つ葉のクローバーを一生懸命探して、見つかるととても嬉しかったのを思い出します。
森を出ると、再び農地の広がる日なたです。ちょうど朝に耕したばかりのように見える赤土。ふと、向こうの方を見やると、トラクターが止まっています。人っ子一人歩いていないお昼時。トラクターの中で誰かお弁当を食ベているのかしら。いや、たぶん、近くの自宅へ戻って昼食を取っているのでしょうね。暖かかったこの冬、菜の花が咲いていましたが、これから何が栽培されるんでしょう? 麦類か、トウモロコシか、そんなところでしょうね。夏になれば、わかることでしょう。