皐月ー5月:ハーブ・パリス
森の湿地に今も咲く古代花
(Paris Quadrifolia, Herb-Paris, Order: Liliales , Family: Melanthiaceae, Genus: Paris)
(ユリ目、メランチウム科、パリス属)
ハーブ・パリス。名前だけでなく、その姿も初夏の森の中でひときわ目立ちます。実は、森がどれほど古いかを推測する指標となる植物だそうです。ハーブ・パリスが生える森は、古代から現代に至るまでほとんど環境が保持されて残っている貴重な森なのです。
というようなことを、実は、4、5年前、友人とThe Woodland Trustが管理する森を歩いていた時、犬を連れた紳士と初めて出くわした時に、森についていろいろ話してくれた時に聞いたのです。私のブログに以前にも数回登場した、森に関するメンターのような存在の紳士です。(かれもボランティアで森再生プロジェクトに関与したことがあるそうです)
「あなたたち、これからGorge (ゴージ:谷間、ここでは丘と丘の間に小川の流れている湿った地帯)の方を歩いていくなら、一風変わった花を見つけられるかもしれないよ。この季節、数週間だけ咲くのだが、奇妙なことに、ほんのわずかな地帯にだけ、毎年群生するんだ。ハーブ・パリスって言うんだがね、葉っぱは4枚、茎の半ば辺りからまん中から外に向かって生えている。花っていうのが、これがまた変わっていて、花という感じじゃない。花っていう感じじゃない、という植物を探してごらんなさい。それが、ハーブ・パリスだから」
それから、私たちはおもむろに、陽当たりのよい原っぱを過ぎ、森の中へ足を向け、ブナの森の向こうへ歩いていった。丘と丘の間は、陽当たりが悪く、小川が流れ、一帯は、苔むしている。それでも、イングリッシュ(もとい、ウェルシュ)・ブルーベルやワイルドガーリック、ウッドアネモネが点々と咲いて、彩りをそえています。
この辺りだな。
注意深く、足をとめて眼を凝らしました。あるあるある!赤みを帯びた緑色の細い茎がまっすぐに伸び、その中間辺りから水平に放射線状に4枚の葉が生えています。そして、その上に目線を移していくと、なんとも奇妙な、一般的に花と呼ぶものとはかけ離れた頭部があります。ぴらぴら下にぶらさがっている緑のものは、萼(がく)です。その間にある(版画ではわかりにくいですが)さらに細い緑のものが花びら、なんだそうです。斜め上にぴっと伸びた槍のような黄色いものは、雄しべです。そして、まん中に鎮座する紫紺のものが、雌しべの役割をする子房(しぼう)です。
ハーブ・パリスが群生している場所は、とても限られています。10mほど歩けば、もう見当たりません。そんな矮小な場所で、ハーブ・パリスは、何百年も、ひょっとすると1000年以上もひっそりと、絶えることなく咲き続けてきたのかもしれないな、と思うと感慨深くなります。
ハーブ・パリスという名前から、何かフランスの首都に関連しているのか、と勘ぐりましたが、実は地名とは関係ありません。ラテン語の学名は、paris quadrifolia、私の拙い推測では、quadriは「4」を指し、foliaは、英語でいうところのfoliage、「葉」を指すのでしょうね。parisは、英語でequality、「均一」「均等」を意味するそうです。ハーブ・パリスは、外見からつけられた名前なのですね。
4枚の葉が、均等に外へ向かって水平についていることから、harmony、「調和」の意味合いもあって、中世時代には、おまじないやら儀式などに使われたようです。別名は、'true lover's knot'(真実の愛の絆)あるいは、 'devil in a bush'(茂みの悪魔)。深い解釈もあると思いますが、単純に訳しています。真実の愛を確かめるためのおまじないやら、魔除けに使われたんでしょうか。
ちょうど今、英国在住の日本人作家(といっても、英国に帰化した)、カズオ・イシグロの最新小説、Buried Giantを読んでいます。小説の設定が、伝説の王、キング・アーサーが亡くなった後の中世初期のイギリス本島となっています。生き別れとなった息子のいる村を訪ねてようと旅する老年の夫婦を中心に、建物も、道らしきものもない、ヒースに覆われた丘や森が果てしなく続く、当時のイギリスの風景が描かれます。魑魅魍魎がいると信じられていた頃、神秘に満ちた森を歩く人たちには、ハーブ・パリスは、時に天使のように、時には悪魔のように見えたのでしょうね。
True lover's knot、大昔からずっと変わらず生息し続けてきたことは、永遠に続く愛の絆の象徴にふさわしいです。茎がすっと空にむかって伸び、4枚の葉がまっすぐ水平に広がったハーブ・パリスの群生は、初夏の若葉がまばらに影を落とす森の中で、凛として美しく映ります。
現代の自然は、ほったらかしでは存続していけません。The Woodland Trustなどの地道な森林保全保護活動の手を借りてでも、これからもずっと変わらずに、数百年先の森の中で、毎年5月に花を咲かせて欲しいです。
ハーブ・パリスが群生している場所は、とても限られています。10mほど歩けば、もう見当たりません。そんな矮小な場所で、ハーブ・パリスは、何百年も、ひょっとすると1000年以上もひっそりと、絶えることなく咲き続けてきたのかもしれないな、と思うと感慨深くなります。
ハーブ・パリスという名前から、何かフランスの首都に関連しているのか、と勘ぐりましたが、実は地名とは関係ありません。ラテン語の学名は、paris quadrifolia、私の拙い推測では、quadriは「4」を指し、foliaは、英語でいうところのfoliage、「葉」を指すのでしょうね。parisは、英語でequality、「均一」「均等」を意味するそうです。ハーブ・パリスは、外見からつけられた名前なのですね。
4枚の葉が、均等に外へ向かって水平についていることから、harmony、「調和」の意味合いもあって、中世時代には、おまじないやら儀式などに使われたようです。別名は、'true lover's knot'(真実の愛の絆)あるいは、 'devil in a bush'(茂みの悪魔)。深い解釈もあると思いますが、単純に訳しています。真実の愛を確かめるためのおまじないやら、魔除けに使われたんでしょうか。
ちょうど今、英国在住の日本人作家(といっても、英国に帰化した)、カズオ・イシグロの最新小説、Buried Giantを読んでいます。小説の設定が、伝説の王、キング・アーサーが亡くなった後の中世初期のイギリス本島となっています。生き別れとなった息子のいる村を訪ねてようと旅する老年の夫婦を中心に、建物も、道らしきものもない、ヒースに覆われた丘や森が果てしなく続く、当時のイギリスの風景が描かれます。魑魅魍魎がいると信じられていた頃、神秘に満ちた森を歩く人たちには、ハーブ・パリスは、時に天使のように、時には悪魔のように見えたのでしょうね。
True lover's knot、大昔からずっと変わらず生息し続けてきたことは、永遠に続く愛の絆の象徴にふさわしいです。茎がすっと空にむかって伸び、4枚の葉がまっすぐ水平に広がったハーブ・パリスの群生は、初夏の若葉がまばらに影を落とす森の中で、凛として美しく映ります。
現代の自然は、ほったらかしでは存続していけません。The Woodland Trustなどの地道な森林保全保護活動の手を借りてでも、これからもずっと変わらずに、数百年先の森の中で、毎年5月に花を咲かせて欲しいです。
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