卯月ー4月:ウッドアネモネ・ヤブイチゲ
白くきらめく風の花
(Anemone nemorosa, Windflower, Buttercup family)
(キンポウゲ科 イチリンソウ属)
変わりやすい春のお天気。明るい晴天の朝を迎えても、彼方にみじんの雲も見えなかったのに、お昼ころになると、にわかに空がかき曇り、肌寒い風が吹いてきたかと思うと、通り雨、時にはアラレも混じることもあります。
4月に入ると、それでも日射しは日ごとに強くなり、日も長くなってきて、春も盛りに入ったことを感じます。
お気に入りの森へ踏み入れると、ブナの木が主に生える、その足元に点々と白い花が目につきます。さらに歩いていくと、あちらこちらに、白い可憐な花びらを一面に敷いたような場所に出くわします。可憐な花が、じゅうたんを敷き詰めたように咲き乱れる様は、幻想的です。
たまに、霧雨の中を歩くことがあります。風もなく、霧のように細かい雨粒が自分の周りを取り巻きます。繊細な白い花、葉っぱにも細かい雨粒が降り注ぎます、音もなく。
それは、ウッドアネモネ(和名:ヤブイチゲ)の花です。白い花びらは、正確には、花びらではなく、萼片(がくへん)と呼ばれるものです。
ウッドアネモネの別名は、ウィンドフラワーです。そのまま日本語にすれば、風花(かざばな)ですが、風に吹かれて舞う雪、全く違うものですね。
私の手元にある、1958年に出版されたB.D. Inglis著の、『英国の野草』(Wild Flowers of Britain, Nelson出版, 1958)に、ウィンドフラワーと呼ばれる由来が書かれています。ー『ウッドアネモネの上を風が吹いた時だけ、花開くと言われている』ー 著者は、それについて、外見とは違い、むき出しの森の中で、早春の荒々しい強風の吹き荒れる気候に耐える強い野草だと書いています。キンポウゲ科の中でも弱々しく見えますが、意外と細い茎は、強風にあおられてもへし折れないほど強いのだそうです。
雪のように白い花びらが風に舞う様を想像すると、風花という名も合っているのかもしれません。でも、私が目にするウッドアネモネは、風の強い日でも、風から守られた森の中で静かに花を咲かせています。
ウッドアネモネを、インターネットで検索していたら、突然、懐かしい花の妖精のイラストが現れました。エドワード朝時代に活躍した女流画家(イラストレーター)であり、詩人でもあるC.M. Barker(シシリー・メアリー バーカー)のイラストです。(3月に紹介した、同じくエドワード朝時代の女流画家で植物研究家のEdith Holdenより少し後の時代に活躍)
大昔、私が子供のの類を買って点数を集めると、彼女の「花の妖精シリーズ」の本がもらえるという企画にまんまと乗り、1冊を手に入れたのでした。当時、洋書など目にすることなどほとんどなかったので、嬉しくて、何度もそれぞれの花の精の絵を丹念にながめたものです。幸いなことに、手元にありました。(といっても、娘が見つけ出してくれました。娘に感謝)
彼女のシリーズには四季と、さらに4種類の本があります。そして、私が持っていたのは、ばっちり「春」。その中に、ウッドアネモネの妖精の女の子と、詩(私の拙訳)があります。ここに描かれた妖精は栗色でゆるくカールしたロングヘアで、うす桃色のドレスを着たスレンダーな女の子。ウッドアネモネの多くは白ですが、うす桃色の花もあるからでしょう。ウッドアネモネの花を2輪、両手に抱えて、風が吹けば今にもダンスを始めそうな様子です。
THE SONG OF THE WINDFLOWER FAIRY
ウィンドフラワーの歌
While human-folk slumber, 人間たちがまどろむ間
The fairies espy 妖精たちは
Stars without number 数えきれないほどの星が
Sprinkling the sky. 空にちりばめられているのを見つける
The Winter's long sleeping, 冬が長い眠りについている間
Like night-time, is done; 夜の間眠るように
But day-stars are leaping でも昼間の星たちは飛び跳ねてる
To welcome the sun. お日さまを歓迎したいから
Star-like they sprinkle 星のように
The wildwood with light; 荒々しい森に光をちりばめる
Countless they twinkle- 数えきれないほど
The Windflowers white! ウィンドフラワーの白がきらめく!
(Flower Fairies of the Spring, Cicely Mary Barker)
(春の花精より シシリー・メアリー・バーカー、1923)
まもなく、白い星のようにまたたくウッドアネモネが、森の中にいっぱい見られるでしょう。