2015年3月1日日曜日

弥生ー3月:春を告げるプリムラ Primrose March 2015

弥生ー2月:プリムラ・ブルガリス
March: Primrose

野性のプリムラ


(Primula vulgaris, Primulaceae family)
(サクラソウ科 サクラソウ属)




最初に、野性のプリムラを見つけたのは、ずいぶん前、スイスか、南ドイツの黒い森地帯の森を歩いていた時です。日本で見知ったプリムラは、ピンク、赤、紫、まっ黄色などの原色まぶしい花を咲かせていたし、公園や庭先でしか見かけたことがなかったので、意外でした。日陰でひっそりと、淡いクリーム色の小さな花を咲かせるプリムラ、早春に彩りを与えてくれるのです。

英国ウェールズへ住み始めてからも、早春になると、森の中や、ちょっとした野原の片隅などでプリムラを見つけるのが楽しみになりました。

このブログを書き始めて、カレンダーに載せた植物について調べるようになりました。今回も、意外な発見がありました。私の持っている古い植物の本、Wild Flowers of Britain (B.D. Inglis, 1958, Nelson)、この中のイラストで気づきました。

花のタイプには、2種類あるのです。花弁も葉っぱも変わりません。が、雄しべと雌しべのつき方が微妙に違うのです。全く気づかなかったとは! 自分の撮った写真をいろいろ見てみると、本当に違うのです。まん中の部分が、丸く平たい待ち針のように見える'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプがあります。これは、雌しべが花弁の所にまで出てきて、花粉のついた雄しべは見えません。もう一つは、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ。花粉のついた雄しべが上の方にあり、雌しべは下部にあって見えません。

同じタイプ間では交配ができず、この異なった2タイプの花の間で交配が行われるそうです。それを担うのは、花蜜を求めてやってくる昆虫。

プリムラの花蜜は花弁の底にあります。針の目タイプの蜜にありつくには、蝶などの昆虫が、ストローのような口吻(こうふん)を伸ばさないといけません。その際、花弁の半ばあたりにある雄しべの花粉に触れます。花粉のついた口吻、昆虫ですから、ぬぐうこともせずに、近くにある、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプの花へ移って、花蜜を吸いに行きます。当然のことながら、もう一方の花粉をつけてきた口吻で吸いますから、花弁の半ばにある雌しべにもう一方の花粉をつけることになります。蝶などの昆虫たちは、あっちへ飛び、こっちへ飛びしますから、そのうちに両方のタイプの花の受粉が完了するという訳です。


'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雌しべ

'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雄しべ

これらについての詳細な説明は、東デヴォンにある Offwell Woodland and Wildlife Trust、 ウェールズにあるFirst Natureの2つのウェブサイトに掲載されています。(でも、写真は、私所有のものです)

花について、かなり熱っぽく、長々と書いてしまいました。

ようやく葉について。野性のものは、小型で、葉の長さも10センチから15センチくらい。鮮やかな濃い緑の白菜のように、しわが深く入り込んでいます。なんだか食べられそうでしょう。私は試したことがありませんが、ほんのり甘味があって、もちろん食べられるようです。The Hedgerow Handbook: Recipes, Remedies and Rituals (Adele Nozendar著, Square Peg社, 2012)という本の中に、葉を使った面白いレシピがあります。

材料は、水1.7ℓ、砂糖300g、プリムラの葉500g、イースト10gだけ。イーストというのだから、発酵させます。何だかわかりますか? お酒ではありません。お酢、です。仕込んでから1か月半かかってようやく使用できるそうです。

きのこ以外の野性の植物なら、何でも試してみたい私ですが、これは想像だけにとどめておきます。プリムラの葉、500gというのはかなりの量です。森などに点在するプリムラをむやみやたらに採取したくないのです。でも、たくさん採っても困らない、例えばイラクサの葉などで試してみるのも良いかも。

凹凸のはっきりした葉、これを更に近づいてみると、さらに細かな葉脈が縦横に走っています。花の方は、ナメクジやカタツムリなどに食べられた跡を見かけても、葉の方は見たことありません。このでこぼこは、食べられないようにするためにあるのかもしれないですね。

3月に入ると、プリムラのクリーム色の花は、いち早く春の雰囲気を醸し出してくれるのです。