2015年6月1日月曜日

水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル Yellow Archangel: June 2015


水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル(ツルオドリコソウ)

夏の始まりを告げる黄色い天使 

(Lamiastrum galeobdolon, Order: Lamiales, Family: Lamiaceae, Genus: Lamium )

(シソ目、シソ科、オドリコソウ属)



6月は、初夏から夏への変わり目です。薄青紫のブルーベルや、純白のワイルドガーリックの花のじゅうたんが、5月の末にかけて色あせて消えていくと同時に、森の中は若々しい緑に覆われていきます。その清々しい緑の森のまわりや、生け垣、原っぱは、次第に鮮やかな夏の花に彩られていきます。

イエロー・アーチエンジェルは、古くからある森の端や、生け垣の日陰に生えています。5月に紹介したハーブ・パリスほどではないですが、それでも貴重な野草の一つです。

シソの仲間なので、日本でもおなじみの青じその葉っぱにも似ていますが、もっと小ぶりです。。近寄ってみると、細かい毛が葉の両面、茎に生えています。雰囲気や大きさは、やはり同じシソの仲間に入る、ミントにさらに似ています。シソやミントのように小さな花とは違い、イエロー・アーチエンジェルはクリーム色のぷっくり丸いつぼみが、ふくらみ、笠つき、赤茶色の模様入りのアームチェアのような花をつけます。茎の周りにぐるりと外向きに、何重にもクリーム色のアームチェアが並んでいるのは、かわいらしいです。想像好きな私は、このアームチェアに、花の妖精たちがしばし羽を休めるために座る姿を思い浮かべます。

イエロー・アーチエンジェルと同じく古代野草のエノキグサ科のドッグス・マーキュリーのぎざぎさしたちょっと三つ葉にも似た緑の葉、濃いピンクの花を咲かせるナデシコ科のレッド・キャンピオン(イギリス英語発音では、カンピオン)、薄紫の花を咲かせるシソ科のグラウンド・アイビー(和名はカキドオシとなっていますが、ウィキペディアの写真は、私の見る実際の花とはちょっと違います)などの間に、イエロー・アーチエンジェルは、日陰になった場所のあちこちにかわいい花を咲かせます。

イエロー・アーチエンジェル。私の持っている20世紀初期に活躍した女流イラストレーターでありナチュラリストであったエディス・ホールデン(Edith Holden)(4月のウッドアネモネ編で紹介しています)の挿し絵入りの本、The Nature Notes of An Edwardian Lady と The Country Diary of An Edwardian Ladyには、異なった名前で掲載されています。Yellow Weasel Snout ー イエロー・ウィーゼル・スナウト。植物としての和名はわかりませんが、直訳すれば、黄色のイタチの鼻。う〜ん、イタチの鼻に例えるには、かわいらしすぎる色と形です。

アーチエンジェルとは、キリスト教では、位の高い天使、大天使を意味するようです。黄色い冠をかぶり、緑の翼をもった天使のようにも見えませんか? 個人的には、こちらの方が好きです。私の持っている現代の植物図鑑には、イエロー・アーチエンジェルの名前で掲載されています。ラテン語の学名は変わらずとも、日常に使う呼び名は、時代とともに変わっていくこともあるのでしょうね。

よく似た外観をもつ、白い斑が緑の葉に入った、Variegated Yellow Archangel(斑入りイエロー・アーチエンジェル)があります。これは、園芸用に交配された種類ですが、種があちこちに飛んで簡単に増えていくので、庭や公園を越えて野性化しているそうです。野草保護団体の一つ、Plantlifeが、他の野草を侵害する植物として警告しています。(1981年に発布された英国の野性生物および田園地帯に関わる法令の中にあると書いてあるのですが、見つけられませんでした)

我が家の近くに、数十年前まで石灰石の採石場だった場所にできた公園があります。さまざまな草木が茂る、緑豊かな公園ですが、興味深いことに、イエロー・アーチエンジェルや、5月に紹介した、ハーブ・パリスなどは、まったく見かけません。

大昔に誕生した小さな森が、長い時間をかけてさまざまな植物や動物たちが加わったり、消えていったりしながら、現在の森を作り上げてきたわけです。その中でイエロー・アーチエンジェルは、古代の森の証となる植物と言われているのは、ずっと昔から、森と一緒に生存してきたからでしょうね。




2015年4月30日木曜日

皐月ー5月:ハーブ・パリス  Herb-Paris: May 2015

皐月ー5月:ハーブ・パリス

森の湿地に今も咲く古代花 

(Paris Quadrifolia, Herb-Paris,  Order: Liliales , Family: Melanthiaceae, Genus: Paris)

(ユリ目、メランチウム科、パリス属)



ハーブ・パリス。名前だけでなく、その姿も初夏の森の中でひときわ目立ちます。実は、森がどれほど古いかを推測する指標となる植物だそうです。ハーブ・パリスが生える森は、古代から現代に至るまでほとんど環境が保持されて残っている貴重な森なのです。

というようなことを、実は、4、5年前、友人とThe Woodland Trustが管理する森を歩いていた時、犬を連れた紳士と初めて出くわした時に、森についていろいろ話してくれた時に聞いたのです。私のブログに以前にも数回登場した、森に関するメンターのような存在の紳士です。(かれもボランティアで森再生プロジェクトに関与したことがあるそうです)

「あなたたち、これからGorge (ゴージ:谷間、ここでは丘と丘の間に小川の流れている湿った地帯)の方を歩いていくなら、一風変わった花を見つけられるかもしれないよ。この季節、数週間だけ咲くのだが、奇妙なことに、ほんのわずかな地帯にだけ、毎年群生するんだ。ハーブ・パリスって言うんだがね、葉っぱは4枚、茎の半ば辺りからまん中から外に向かって生えている。花っていうのが、これがまた変わっていて、花という感じじゃない。花っていう感じじゃない、という植物を探してごらんなさい。それが、ハーブ・パリスだから」

それから、私たちはおもむろに、陽当たりのよい原っぱを過ぎ、森の中へ足を向け、ブナの森の向こうへ歩いていった。丘と丘の間は、陽当たりが悪く、小川が流れ、一帯は、苔むしている。それでも、イングリッシュ(もとい、ウェルシュ)・ブルーベルやワイルドガーリック、ウッドアネモネが点々と咲いて、彩りをそえています。

この辺りだな。

注意深く、足をとめて眼を凝らしました。あるあるある!赤みを帯びた緑色の細い茎がまっすぐに伸び、その中間辺りから水平に放射線状に4枚の葉が生えています。そして、その上に目線を移していくと、なんとも奇妙な、一般的に花と呼ぶものとはかけ離れた頭部があります。ぴらぴら下にぶらさがっている緑のものは、萼(がく)です。その間にある(版画ではわかりにくいですが)さらに細い緑のものが花びら、なんだそうです。斜め上にぴっと伸びた槍のような黄色いものは、雄しべです。そして、まん中に鎮座する紫紺のものが、雌しべの役割をする子房(しぼう)です。

ハーブ・パリスが群生している場所は、とても限られています。10mほど歩けば、もう見当たりません。そんな矮小な場所で、ハーブ・パリスは、何百年も、ひょっとすると1000年以上もひっそりと、絶えることなく咲き続けてきたのかもしれないな、と思うと感慨深くなります。

ハーブ・パリスという名前から、何かフランスの首都に関連しているのか、と勘ぐりましたが、実は地名とは関係ありません。ラテン語の学名は、paris quadrifolia、私の拙い推測では、quadriは「4」を指し、foliaは、英語でいうところのfoliage、「葉」を指すのでしょうね。parisは、英語でequality、「均一」「均等」を意味するそうです。ハーブ・パリスは、外見からつけられた名前なのですね。

4枚の葉が、均等に外へ向かって水平についていることから、harmony、「調和」の意味合いもあって、中世時代には、おまじないやら儀式などに使われたようです。別名は、'true lover's knot'(真実の愛の絆)あるいは、 'devil in a bush'(茂みの悪魔)。深い解釈もあると思いますが、単純に訳しています。真実の愛を確かめるためのおまじないやら、魔除けに使われたんでしょうか。

ちょうど今、英国在住の日本人作家(といっても、英国に帰化した)、カズオ・イシグロの最新小説、Buried Giantを読んでいます。小説の設定が、伝説の王、キング・アーサーが亡くなった後の中世初期のイギリス本島となっています。生き別れとなった息子のいる村を訪ねてようと旅する老年の夫婦を中心に、建物も、道らしきものもない、ヒースに覆われた丘や森が果てしなく続く、当時のイギリスの風景が描かれます。魑魅魍魎がいると信じられていた頃、神秘に満ちた森を歩く人たちには、ハーブ・パリスは、時に天使のように、時には悪魔のように見えたのでしょうね。

True lover's knot、大昔からずっと変わらず生息し続けてきたことは、永遠に続く愛の絆の象徴にふさわしいです。茎がすっと空にむかって伸び、4枚の葉がまっすぐ水平に広がったハーブ・パリスの群生は、初夏の若葉がまばらに影を落とす森の中で、凛として美しく映ります。

現代の自然は、ほったらかしでは存続していけません。The Woodland Trustなどの地道な森林保全保護活動の手を借りてでも、これからもずっと変わらずに、数百年先の森の中で、毎年5月に花を咲かせて欲しいです。




2015年4月13日月曜日

イースターの月曜日に: St Bridges Majorにて散策

イースターの月曜日。久しぶりの青空、風もなく暖か。車で半時間ほど西へ行った、海に近い小さな村、St Brides Majorまで出かけました。村はずれに車を停め、丘を登っていくと、そこには壮大な風景が広がっていました。大きな木は全くなく、gorseという荒れ地によく見られるマメ科の黄色い花が一斉に咲いていました。反対側では、羊の群れがのんびりと草を食んだり、ねそべっていたりしていました。この春に生まれたばかりの子羊たちも。


丘をぐるりと歩くと、下り坂に。要所ごとにウォーキング用のサインがあります。それに従って急な道をすべらないように気をつけて歩いていきます。


丘のふもとには、小さな川が流れています。小川というにはちょっと大きく、川というには小さめかというサイズ。途中に、分岐路があるのですが、徒歩だとステッピングストーン、飛び石がある(写真左から斜め右)のですが、車は、何と川の中を通るのです。とはいえ、川底は浅く、車が通れるように平らにしてあります。私たちが見ている間に数台が通り抜けましたが、ほんの少しちゅうちょした後、えいやっとばかりにエンジンをふかして向こう岸へ渡っていきました。

右端にいる女性は、水から十分離れてなかったばかりに、足元がびしょぬれになりました。犬くんは、おかまいなしに川の中をじゃぶじゃぶと走り回っていました。何せ、久しぶりのお天気で、おまけに風もなくあったかかったのですから。


川沿いの道には、2か所、石造りの鉄橋がありました。その下を、ポニーに乗った女の子が、お母さんとおしゃべりしながらのんびり通り過ぎました。


この川には、もう一つ向こう岸に渡れる橋があります。Clapper Bridgeと呼ばれ、アーチ型や吊り橋などができる以前に使われた古いタイプだそうです。どのくらい古いかは不明ですが、昔は、周辺の村の住民が生活のために使ったのでしょうね。


川から逸れて、村の方へ戻る途中に、自然保全地域があります。スイセンやウッドアネモネ(3月のカレンダーに登場)が自生しています。スイセンは、もう盛りを過ぎていましたが、ウッドアネモネの白い花があちこちに咲いていました。


自然保全地域が終わると、生け垣に両面囲まれた農道になります。途中で、乗馬クラブのグループとすれ違いました。一人一人が、「待ってくれてありがとう」と良いながら通りすぎていきました。10人以上はいたでしょう。

彼らが過ぎていった後、ふと傍らを見ると、「卵売ります」のサインが。そこには小さな石造りのコッテージ。ちょうど卵を切らしていたところなので、卵を買おうと裏側へまわると、そこの主らしい男性がいました。

にこやかな彼は、私たちが道に迷ったのかと思ったらしいですが、卵を買いたいと言うと、ちょうど1ダースあると出してくれました。彼から1ダースの卵を買いました。1ダース、放し飼いの鶏の卵2ポンド。とってもお買い得です。卵は3種類。さまざまな色と大きさのもの。彼は、レグホン種と烏骨鶏のものだと教えてくれました。

後日、卵を食べましたが、とっても新鮮な卵で濃厚な味でした。普段でも放し飼いと書いてある卵をスーパーで買っているのですが、断然の違い。


帰路は、海辺を通って帰りました。たくさんの車と人であふれ帰った海岸を横目に通り過ぎました。私たちの歩いた道では、ほんの数グループとすれ違っただけ。みんな、短くとも「ハロー」と挨拶を交わしました。その他は、さえずる小鳥たちの声、小川のせせらぎだけ。

2015年4月1日水曜日

卯月ー4月:ウッドアネモネ Wood Anemone: April 2015

卯月ー4月:ウッドアネモネ・ヤブイチゲ

白くきらめく風の花 


(Anemone nemorosa, Windflower, Buttercup family)
(キンポウゲ科 イチリンソウ属)


変わりやすい春のお天気。明るい晴天の朝を迎えても、彼方にみじんの雲も見えなかったのに、お昼ころになると、にわかに空がかき曇り、肌寒い風が吹いてきたかと思うと、通り雨、時にはアラレも混じることもあります。

4月に入ると、それでも日射しは日ごとに強くなり、日も長くなってきて、春も盛りに入ったことを感じます。

お気に入りの森へ踏み入れると、ブナの木が主に生える、その足元に点々と白い花が目につきます。さらに歩いていくと、あちらこちらに、白い可憐な花びらを一面に敷いたような場所に出くわします。可憐な花が、じゅうたんを敷き詰めたように咲き乱れる様は、幻想的です。

たまに、霧雨の中を歩くことがあります。風もなく、霧のように細かい雨粒が自分の周りを取り巻きます。繊細な白い花、葉っぱにも細かい雨粒が降り注ぎます、音もなく。

それは、ウッドアネモネ(和名:ヤブイチゲ)の花です。白い花びらは、正確には、花びらではなく、萼片(がくへん)と呼ばれるものです。

ウッドアネモネの別名は、ウィンドフラワーです。そのまま日本語にすれば、風花(かざばな)ですが、風に吹かれて舞う雪、全く違うものですね。

私の手元にある、1958年に出版されたB.D. Inglis著の、『英国の野草』(Wild Flowers of Britain, Nelson出版, 1958)に、ウィンドフラワーと呼ばれる由来が書かれています。ー『ウッドアネモネの上を風が吹いた時だけ、花開くと言われている』ー 著者は、それについて、外見とは違い、むき出しの森の中で、早春の荒々しい強風の吹き荒れる気候に耐える強い野草だと書いています。キンポウゲ科の中でも弱々しく見えますが、意外と細い茎は、強風にあおられてもへし折れないほど強いのだそうです。

雪のように白い花びらが風に舞う様を想像すると、風花という名も合っているのかもしれません。でも、私が目にするウッドアネモネは、風の強い日でも、風から守られた森の中で静かに花を咲かせています。

ウッドアネモネを、インターネットで検索していたら、突然、懐かしい花の妖精のイラストが現れました。エドワード朝時代に活躍した女流画家(イラストレーター)であり、詩人でもあるC.M. Barker(シシリー・メアリー バーカー)のイラストです。(3月に紹介した、同じくエドワード朝時代の女流画家で植物研究家のEdith Holdenより少し後の時代に活躍)

大昔、私が子供のの類を買って点数を集めると、彼女の「花の妖精シリーズ」の本がもらえるという企画にまんまと乗り、1冊を手に入れたのでした。当時、洋書など目にすることなどほとんどなかったので、嬉しくて、何度もそれぞれの花の精の絵を丹念にながめたものです。幸いなことに、手元にありました。(といっても、娘が見つけ出してくれました。娘に感謝)

彼女のシリーズには四季と、さらに4種類の本があります。そして、私が持っていたのは、ばっちり「春」。その中に、ウッドアネモネの妖精の女の子と、詩(私の拙訳)があります。ここに描かれた妖精は栗色でゆるくカールしたロングヘアで、うす桃色のドレスを着たスレンダーな女の子。ウッドアネモネの多くは白ですが、うす桃色の花もあるからでしょう。ウッドアネモネの花を2輪、両手に抱えて、風が吹けば今にもダンスを始めそうな様子です。



THE SONG OF THE WINDFLOWER FAIRY
ウィンドフラワーの歌

While human-folk slumber, 人間たちがまどろむ間
The fairies espy 妖精たちは
Stars without number 数えきれないほどの星が
Sprinkling the sky. 空にちりばめられているのを見つける
The Winter's long sleeping, 冬が長い眠りについている間
Like night-time, is done; 夜の間眠るように
But day-stars are leaping でも昼間の星たちは飛び跳ねてる
To welcome the sun. お日さまを歓迎したいから
Star-like they sprinkle 星のように
The wildwood with light; 荒々しい森に光をちりばめる
Countless they twinkle- 数えきれないほど
The Windflowers white! ウィンドフラワーの白がきらめく!


(Flower Fairies of the Spring, Cicely Mary Barker)
(春の花精より シシリー・メアリー・バーカー、1923)


まもなく、白い星のようにまたたくウッドアネモネが、森の中にいっぱい見られるでしょう。







2015年3月1日日曜日

弥生ー3月:春を告げるプリムラ Primrose March 2015

弥生ー2月:プリムラ・ブルガリス
March: Primrose

野性のプリムラ


(Primula vulgaris, Primulaceae family)
(サクラソウ科 サクラソウ属)




最初に、野性のプリムラを見つけたのは、ずいぶん前、スイスか、南ドイツの黒い森地帯の森を歩いていた時です。日本で見知ったプリムラは、ピンク、赤、紫、まっ黄色などの原色まぶしい花を咲かせていたし、公園や庭先でしか見かけたことがなかったので、意外でした。日陰でひっそりと、淡いクリーム色の小さな花を咲かせるプリムラ、早春に彩りを与えてくれるのです。

英国ウェールズへ住み始めてからも、早春になると、森の中や、ちょっとした野原の片隅などでプリムラを見つけるのが楽しみになりました。

このブログを書き始めて、カレンダーに載せた植物について調べるようになりました。今回も、意外な発見がありました。私の持っている古い植物の本、Wild Flowers of Britain (B.D. Inglis, 1958, Nelson)、この中のイラストで気づきました。

花のタイプには、2種類あるのです。花弁も葉っぱも変わりません。が、雄しべと雌しべのつき方が微妙に違うのです。全く気づかなかったとは! 自分の撮った写真をいろいろ見てみると、本当に違うのです。まん中の部分が、丸く平たい待ち針のように見える'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプがあります。これは、雌しべが花弁の所にまで出てきて、花粉のついた雄しべは見えません。もう一つは、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ。花粉のついた雄しべが上の方にあり、雌しべは下部にあって見えません。

同じタイプ間では交配ができず、この異なった2タイプの花の間で交配が行われるそうです。それを担うのは、花蜜を求めてやってくる昆虫。

プリムラの花蜜は花弁の底にあります。針の目タイプの蜜にありつくには、蝶などの昆虫が、ストローのような口吻(こうふん)を伸ばさないといけません。その際、花弁の半ばあたりにある雄しべの花粉に触れます。花粉のついた口吻、昆虫ですから、ぬぐうこともせずに、近くにある、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプの花へ移って、花蜜を吸いに行きます。当然のことながら、もう一方の花粉をつけてきた口吻で吸いますから、花弁の半ばにある雌しべにもう一方の花粉をつけることになります。蝶などの昆虫たちは、あっちへ飛び、こっちへ飛びしますから、そのうちに両方のタイプの花の受粉が完了するという訳です。


'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雌しべ

'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雄しべ

これらについての詳細な説明は、東デヴォンにある Offwell Woodland and Wildlife Trust、 ウェールズにあるFirst Natureの2つのウェブサイトに掲載されています。(でも、写真は、私所有のものです)

花について、かなり熱っぽく、長々と書いてしまいました。

ようやく葉について。野性のものは、小型で、葉の長さも10センチから15センチくらい。鮮やかな濃い緑の白菜のように、しわが深く入り込んでいます。なんだか食べられそうでしょう。私は試したことがありませんが、ほんのり甘味があって、もちろん食べられるようです。The Hedgerow Handbook: Recipes, Remedies and Rituals (Adele Nozendar著, Square Peg社, 2012)という本の中に、葉を使った面白いレシピがあります。

材料は、水1.7ℓ、砂糖300g、プリムラの葉500g、イースト10gだけ。イーストというのだから、発酵させます。何だかわかりますか? お酒ではありません。お酢、です。仕込んでから1か月半かかってようやく使用できるそうです。

きのこ以外の野性の植物なら、何でも試してみたい私ですが、これは想像だけにとどめておきます。プリムラの葉、500gというのはかなりの量です。森などに点在するプリムラをむやみやたらに採取したくないのです。でも、たくさん採っても困らない、例えばイラクサの葉などで試してみるのも良いかも。

凹凸のはっきりした葉、これを更に近づいてみると、さらに細かな葉脈が縦横に走っています。花の方は、ナメクジやカタツムリなどに食べられた跡を見かけても、葉の方は見たことありません。このでこぼこは、食べられないようにするためにあるのかもしれないですね。

3月に入ると、プリムラのクリーム色の花は、いち早く春の雰囲気を醸し出してくれるのです。


2015年2月15日日曜日

2月の春めいた日曜に:森の中の川沿いを歩く

これは、今日ではなく、先週の日曜、春めいた日ざしの明るい日曜でした。近くの公園のインフォメーションセンターで見つけた、この辺りのウォーキングマップ。10種類もあるのですが、その中の一つ、「鮭の川登りウォーク」と名付けられたウォーキングコース。前々から、ウォーキング好きの友人がフェイスブックにアップしている写真にあったコースで、目をつけてました。大好きな森のはずれに位置する川沿いを歩くコースです。まだ、歩いたことがない場所でしたが、このウォーキングマップ、非常に明確な地図が示されている上に、写真でポイントごとのサインまで明示してあります。これなら、初めてでも迷わないだろうと、試しに歩いてみることにしました。


小さな村はずれに車をとめ、川の方へ向かうと、ウォーキングマップの中の写真に示されている通りのサインが。そこから、川のほとりの道へ。道と川の間は、笹やら蕗やら、葦やらが繁っているので、川へは近寄れません。



さらに川上へと歩いていくと、あちこちに倒木が横たわっています。ある木は、川の中(写真上の奥)に、ある木は森の中、ある木(写真上の手前)などは道をさえぎってます。川の中など、木にいろいろなものがひっかかり、鮭など泳いでいけないんでは、と心配がよぎります。秋は大丈夫だったんだろうかしら?



倒木は、そのまま朽ち果てていっています。かなり朽ち果てた木の幹には、びっしりと苔やらシダやらキノコが生えています。見事なくらい。ほとんど陽のささない丘と丘の間の川べりに、午後の太陽が射しこんで、苔を照らし、荘厳な雰囲気をかもしだしていました。谷間に太陽が射すということは、春も近づいてきている証拠。



ウォーキングコースは、川べりから離れて、丘の上へ出ます。その端の日陰に、野性のスイセンが小さなつぼみをつけて群生していました。



丘の上に出るとまぶしい陽の光。裸の木々も春の芽吹きの準備。




のんびり歩いていたら、いつの間にか、4時近く。コースは終わり、牧場の横を通ったら、牛たちがちょうど夕ご飯の干し草を食んでいました。そのうちの1頭が、大きな大きな黒目がちの瞳をこちらに向けていました。

このウォーキングコースで、出会ったのは、ほんの4、5人。とても静かな早春の道歩きでした。

2015年2月1日日曜日

如月ー2月:スノードロップ Snowdrop: February 2015


如月ー2月:スノードロップ

一番に春を告げる可憐な花

(Galanthus nivalis, Fair Maids of February, lily family)
(ヒガンバナ科 ユキノハナ)




'Fair Maids of February' ー 二月の可憐な娘たちー とでも訳したらよいでしょうか。'Fair'という形容詞には、さまざまな意味合いがあります。直接的、視覚的に訳せば、濁りのない、清々しい白い花びらの色から、「色白の」という訳が適当でしょうね。でも、色白の'Maid' (少女、娘、乙女)というのであれば、雰囲気から「美しい」とか「魅力的」な感じにも受け取れます。清々しい白と、少しぼうっと霧のかかったようなうす青緑色の葉の印象から、あっけらかんと明るい夏の花達とは違って、私は「可憐な娘たち」と呼びたいのです。(ちなみに、朝日新聞社の『花おりおり』2003年第8版では、「二月の美しい少女」となっています)

私の手元に、20世紀初めに出版された復刻版(といっても、それも1977年出版の古本)の『エドワード朝の一婦人によって書かれた田園日記』(原題:The Country Diary of An Edwardian Lady)があります。作者のイーディス・ホールデン(Edith Holden)は、日本でおなじみの『ピーターラビット』の作者、ベアトリクス・ポッターと同じ時代を生きた女性です。ポッターと同じく、彼女もナチュラリスト、自然主義者として、自然の中の生物の描写を数多く手がけたそうです。20世紀の初め、この二人の女性が、イラストレーターとして活躍するまでの背景は、おそらく大変なことだったでしょう。

話がそれましたが、ホールデンの本の、「2月」の章で、'Fair Maids of February'という言葉を見つけたのです。スノードロップの描かれたページには、19世紀前半に活躍した詩人、Hartley Coleridgeの2月についての詩が引用されています。うちの町に、Coleridge Avenueという通りがありますが、おそらくこの詩人の名を取ったのでしょうね。でも、詩については全く知りませんでした。また余談。

「…まるで揺らめく青白い火のように、冷たい大地を緑の鋭い葉で貫く…」

なんだか、氷の女王のような印象を受けますが、実際は、小さくて可憐です。葉っぱも、スイセンに似て、先っぽは、とんがっていません。ちなみに、スイセンもスノードロップもヒガンバナ科に入るので、葉っぱが似ているのですね。

うちの庭に毎年、同じ場所に登場するスノードロップは、10㎝あるかないかの高さで、小さくかわいらしいものです。

前回のブログに書いたように、今年は、1月の半ば頃に、すでに小さなつぼみをつけ始めました。Woodland Trustという英国の森林やそこに生息する動植物を保護維持するボランティア団体によれば、スノードロップを初め、春先に花咲く植物は、過去25年ほどの間の観察で、毎年、開花が早まっているそうなのです。温暖化の影響なのかもしれないですが、1月あたりに、気温が高まり、春のような陽気に、植物だけでなく冬眠していたカエルなどの動物たちも活動を始めてしまうことも。ただし、寒の戻りで、霜が下りたりすると、やわらかい繊細な若葉や、動物たちはダメージを受けてしまう危険があるのだそうです。

Woodland Trustの運営するフェイスブック・ページには、1月下旬から続々とスノードロップ開花の写真が、寄せられています。つい先日には、うちの町にある、オープンして間もない花屋さんの店先に、小さなつぼみをつけたスノードロップの小鉢が並んでいました。

「2月の可憐な娘たち」が「1月の可憐な娘たち」と呼び名が変わってしまわないように!