2015年8月7日金曜日

葉月ー8月:アカツメクサ Red Clover August 2015

葉月ー8月:アカツメクサ

真夏の野原に咲く 薄紅色の花


(Trifolium pratense, Order: Fabales, Family: Fabaceae, Genus: Trifolium )
(マメ目 マメ科 シャジクソウ属)



8月の半ば、野原の色は黄色みを帯びて秋めいてきます。ニンジン科の種は黄色や茶色に色づき、シバ科の草は黄色くなってきます。でも、まだまだ草花は彩り鮮やかに咲き乱れています。ミツバチやチョウは、いそがしく花から花へと飛び回ります。

そんな野原のあちこちに、薄紅色のアカツメクサが咲いています。おなじみのシロツメクサは、どちらかというと芝生の中に群生していますが、アカツメクサは、いろいろな野草が生えている草ぼうぼうとした野原に多く見かけます。

アカツメクサと呼ばれますが、花は、赤というより、薄紅、淡いピンク色から濃いピンク色のグラデーションです。花も、一つの花が豪華に咲くのではなく、小さな花が集まって花房を形づくって、一つの花のように見えるのです。その小さな花の一つ一つは、エンドウ豆の花と同じに見えます。マメ科の植物なのですから。

夕方の野原を歩いている途中、アカツメクサの花を一つ採って、小さな花の下の方を吸ってみました。ほんの少し、甘い花蜜の味と香りがしました。子供の頃、サルビアの花の蜜を吸ったものだ、と思い出しました。

楕円の葉は、軸を中心に3つ葉になっていて、葉の中心辺りに、三日月型の白い斑があります。(シロツメクサは、丸い葉です)

他のマメ科の植物のように、土壌を肥沃にする窒素を固定してくれる作用があるために、牧草地や農地に生えていることもあります。しかし、日本でもこちら英国でも、どこにでも見かけるアカツメクサ、葉も花も食べられるというのは、今まで知りませんでした。(同じマメ科のスイトピーは、毒があり食べられないのでご注意を)

Adele Nozendar 著、The Hedgerow Handbook (Square Peg出版, 2012年)に、アカツメクサのレシピが載っています。他のエディブルフラワーと同じく、花をサラダに散らしたりして食べることができます。でも、花をご飯の中に混ぜ込むレシピというのは思いつきませんでした。味つけは、塩と砂糖を少々、それだけです。ほのかな花の香りの漂う混ぜご飯、夏なら、豚肉の生姜焼きなど焼き肉料理に合いそうです。ちなみにクローバーの柔らかい葉もサラダに入れたり、ニンニクと玉ねぎと一緒に炒めて食べるとおいしいそうです。マメ科の葉っぱだし、さわやかな甘味のあるさっぱりした食感でしょうね。

この本には、「アカツメクサのレモネード」(これは、香りのあるエディブルフラワーなら、同じレシピで作ることができます)と「アカツメクサとアーモンドのビスケット」のレシピが載っていますが、かなりの量の花が必要です。でも、野原にたくさん咲いているアカツメクサの花、多いに活用できます。

アカツメクサ(シロツメクサでもよい)には、時々2つ葉のクローバーが混じっているそうです。古い言い伝えによると、この2つ葉のクローバーは結婚につながるそうです。未婚の少女が2つ葉クローバーを見つけ、それを持って帰ると、その後、最初に出会った男性と結婚する運命になるという。今の時代もそうであれば、どんなにロマンチックでしょう。

(追記)
カレンダーのブログにこれまでも引用してきた、シシリー・メアリー・バーカー(Cicely Mary Barker)の『花の妖精全集』(
The Complete Book of The Flower Fairies, 2002年, 初版は1923年)に、アカツメクサの妖精の詩(歌)が載っています。

アカツメクサの歌
妖精:
あれ?なんて大きなハチさん!
私のところに来てくれたのね!
私の蜜を探しにきてくれたのね
なんて大きなハチさん!

ハチ:
まあ、なんて大きなクローバー!
私は、しっかり隅から隅まで探しますよ
そうして、蜜をぜーんぶ集めます
なんて大きなクローバー!

アカツメクサの妖精は、薄紅色のギザギザスカートを履いて、頭にスカーフを巻いたくせ毛で赤毛の小さな女の子。アカツメクサの葉っぱに足をちょこんとのせ、花の蜜を一心に求めているハチ(クマバチ)を、興味津々の顔で見つめています。中世の迷信では、愛を結ぶ花として伝えられていますが、シシリー・メアリー・バーカーは、可愛らしい無邪気な女の子のイメージでとらえています。



***** Adele Nozendar's 'The Hedgerow Handbook'のレシピより *****

アカツメクサのレモネード(Red Clover Lemonade)
約1ℓ作れます
新鮮なアカツメクサの花 750g 
水 500ℓ
ハチミツ(あるいは砂糖) 500g
レモン 2個分の果汁

1. アカツメクサの花を、沸騰させた湯に入れ、ふたをし、弱火で10分煮る。入れた後、沸騰させる必要なし。その後、ハチミツ(あるいは砂糖)を加え、溶けるまでかき混ぜる。
2. 火からおろし、ふたをし、最低数時間から一晩そのまま置く。
3.  置いて、香りをなじませた液体に、レモン果汁を加え、冷蔵庫で冷やす。
4.その後、きれいな晒し布などで漉し、殺菌したきれいな瓶へ移す。飲む際、好みの量をグラスへ入れ、好みで氷も入れ、そこに水を加えて希釈する。あれば、レモンの輪切りや、クローバーの花を散らしてできあがり。 

アカツメクサとアーモンドのビスケット(Red Clover Almond Biscuits)
25個作れます
全粒小麦粉 380g 
ベーキングパウダー 小さじ3
アーモンド 100g 
無塩バター 100g 
卵 2個
バターミルク 120ml (牛乳とプレーンヨーグルトを半々で混ぜたものを代用できます)
アーモンドエッセンス 小さじ1/4(なければ、必要なし)
新鮮なアカツメクサの花 287g (花房をバラバラにほぐしておく)

1. オーブンを、230 ℃(ガスオーブンは8)に加熱しておく。
2. フードプロセッサーで、小麦粉、ベーキングパウダー、アーモンドを同時に粉砕する。
3. フードプロセッサーにバターを加え、ぱらぱらした生地になるまで撹拌する。
4.  卵、バターミルク、アーモンドエッセンス、アカツメクサの花を加える。
5. フードプロセッサーで生地がまとまるまで撹拌する。
6. 生地をロールで1㎝ほどの厚さに伸ばす。
7. 5センチ四方の正方形に切り、ベーキングシートを敷いたトレイに並べ、10〜15分間焼く。

2015年7月1日水曜日

文月ー7月:ナガミヒナゲシ Long-headed Poppy June 2015

文月ー7月:ナガミヒナゲシ

夏の草原で


(Papaver dubium, Order: Ranunculales, Family: Papaveraceae, Genus: Papaver )

(ケシ目、ケシ科、ケシ属)




ヒナゲシ、英国では戦没者追悼の花(remembrance poppy)として知らない人はいないほどです。英国在郷軍人会(The Royal British Legion)という全国的な慈善組織が、11月11日の戦没者追悼の日(第一次世界大戦の停戦日、1918年11月11日)前後に、Poppy Appealと銘打って、赤いヒナゲシの花のブローチなど販売して寄付を募ります。英国では、あまりに一般的なのですが、もともと第一次世界大戦の戦没者ならびに負傷者、その家族のために募金活動が始まったのですが、今ではアフガニスタン戦争や最近の戦争などに関わった人達への支援も行っています。

赤い紙で作られたポピーが英国の至るところに見られるのは、晩秋から初冬にかけて。でも、実際のヒナゲシは夏の草原に咲きます。

ヒナゲシにはいくつかの種類があります。その多くは、花弁のまん中が黒いので、赤い花びらの中に大きな黒点があるように見えます。Poppy Appealで使われる花は、common poppy(ヒナゲシ)です。

ビクトリア王朝(19世紀後半から20世紀初期)時代にイラストレーターとして活躍したCicely Mary Barkerの花の妖精シリーズの夏編、Flower Fairies of the Summer (初版は1925年)に登場するヒナゲシの妖精も、赤い花びらに黒いぽっちりのあるヒナゲシ(common poppy)です。黒く長い髪を持つ、きりっとした少女です。

ずいぶん前になりますが、庭の隅に、小さなワイルドフラワーの一角を作りたいと思って、園芸センターでワイルドフラワーと書かれた花の種を1袋購入して春先にぱらりと蒔きました。

7月になったある日、青いヤグルマソウや、白いマーガレットの中に赤い花が咲き始めました。ヒナゲシです。Common poppy のどちらかというと豪華な花の他に、ほわんとやわらかい雰囲気を持っているヒナゲシもありました。

ナガミヒナゲシは、花弁のまん中に黒点を持つヒナゲシの種類とは異なり、ややピンクがかった赤の花びらです。まん中には、黒い点はなく、緑の雌しべがぽっちりとあるだけです。名前の由来からもわかるように、実も他のヒナゲシとは異なり、細長い形をしています。とげとげした毛もなくスムーズです。

そういうた容姿になんとなく魅かれました。それで版画にした次第です。

スティーブン・モス(英国のワイルドライフ/野性生物に関するライター、ブロードキャスターでありTVプロデューサー)の著書、The Bumper Book of Nature (by Stephen Moss, 2009, Square Peg) (『自然満載の本』とでも訳しましょうか)が手元にあります。その中で、ヒナゲシの花は7月20日の聖マーガレットの日(キリスト教やユダヤ教での聖人の祝日、日ごとに数名の聖人の名前が冠してある)の前後に開花すると言われているそうです。スティーブン・モスは、1893年、100年以上も前に出版された Weather Lore by Richard Inwards, 1893.)  (『天気に関する本』)から1年分(1月は掲載されていない)の主だった植物ををリストにして引用しています。聖人の祝日と植物の生育をうまくむすびつけたのかもしれません。

私たちの住む町に、ヨットハーバーがあります。そのそばに公園があり、夏になるとワイルドフラワーが咲き誇ります。私たちが引っ越してきた当時には、単なる荒れた原っぱで、あちこちにプラスティックの大きなチューブなどが横たわっていました。歩いて楽しいような雰囲気ではなかったので、長いこと通ったこともありませんでした。

調べてみると、どうやら、昔はゴミの埋め立て地だったようです。ゴミが埋められた後、ガス管や下水管などが整備され、その上にワイルドフラワーの種が蒔かれ、住民の憩いの場になったのは、数年前からなようです。英国では、そのような場所があちこちにあります。

この辺りで完全な野性のヒナゲシを見たことは、残念ながらありません。

半七捕物帳で知られる岡本綺堂(1872-1939)の随筆集に納められた随筆の一つに、フランス旅行記があります。時は、ちょうど第一次世界大戦直後、1919年の初夏、ランスの町の戦争痕の見物というのを、トーマス・クック旅行代理店が企画していて、パリから蒸気汽車に乗って郊外のラーンス(Reims)を訪れます。

彼の描写は、人々だけでなく、風景も詳細です。ヒナゲシは、随筆のあちこちに登場します。

〜途中で汽車がトラブルで停車した線路を横切る小川の傍らにヒナゲシの赤い花とブリューベル(英国のブルーベルと同じとは思えないが)の青い花が川辺の柳の下に咲いている。あるいは、壁の弾痕生々しい町のトチノキ(マロニエ)の並木の下にも、ヒナゲシはしおらしく咲いている。かつての戦場だった草ぼうぼうの野原には、一面のヒナゲシの花の紅い色に染まっている〜

ヒナゲシは、ヨーロッパの人々にとっては戦争で傷ついた心と結びついた思い入れの強い夏の花です。




2015年6月1日月曜日

水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル Yellow Archangel: June 2015


水無月ー6月:イエロー・アーチエンジェル(ツルオドリコソウ)

夏の始まりを告げる黄色い天使 

(Lamiastrum galeobdolon, Order: Lamiales, Family: Lamiaceae, Genus: Lamium )

(シソ目、シソ科、オドリコソウ属)



6月は、初夏から夏への変わり目です。薄青紫のブルーベルや、純白のワイルドガーリックの花のじゅうたんが、5月の末にかけて色あせて消えていくと同時に、森の中は若々しい緑に覆われていきます。その清々しい緑の森のまわりや、生け垣、原っぱは、次第に鮮やかな夏の花に彩られていきます。

イエロー・アーチエンジェルは、古くからある森の端や、生け垣の日陰に生えています。5月に紹介したハーブ・パリスほどではないですが、それでも貴重な野草の一つです。

シソの仲間なので、日本でもおなじみの青じその葉っぱにも似ていますが、もっと小ぶりです。。近寄ってみると、細かい毛が葉の両面、茎に生えています。雰囲気や大きさは、やはり同じシソの仲間に入る、ミントにさらに似ています。シソやミントのように小さな花とは違い、イエロー・アーチエンジェルはクリーム色のぷっくり丸いつぼみが、ふくらみ、笠つき、赤茶色の模様入りのアームチェアのような花をつけます。茎の周りにぐるりと外向きに、何重にもクリーム色のアームチェアが並んでいるのは、かわいらしいです。想像好きな私は、このアームチェアに、花の妖精たちがしばし羽を休めるために座る姿を思い浮かべます。

イエロー・アーチエンジェルと同じく古代野草のエノキグサ科のドッグス・マーキュリーのぎざぎさしたちょっと三つ葉にも似た緑の葉、濃いピンクの花を咲かせるナデシコ科のレッド・キャンピオン(イギリス英語発音では、カンピオン)、薄紫の花を咲かせるシソ科のグラウンド・アイビー(和名はカキドオシとなっていますが、ウィキペディアの写真は、私の見る実際の花とはちょっと違います)などの間に、イエロー・アーチエンジェルは、日陰になった場所のあちこちにかわいい花を咲かせます。

イエロー・アーチエンジェル。私の持っている20世紀初期に活躍した女流イラストレーターでありナチュラリストであったエディス・ホールデン(Edith Holden)(4月のウッドアネモネ編で紹介しています)の挿し絵入りの本、The Nature Notes of An Edwardian Lady と The Country Diary of An Edwardian Ladyには、異なった名前で掲載されています。Yellow Weasel Snout ー イエロー・ウィーゼル・スナウト。植物としての和名はわかりませんが、直訳すれば、黄色のイタチの鼻。う〜ん、イタチの鼻に例えるには、かわいらしすぎる色と形です。

アーチエンジェルとは、キリスト教では、位の高い天使、大天使を意味するようです。黄色い冠をかぶり、緑の翼をもった天使のようにも見えませんか? 個人的には、こちらの方が好きです。私の持っている現代の植物図鑑には、イエロー・アーチエンジェルの名前で掲載されています。ラテン語の学名は変わらずとも、日常に使う呼び名は、時代とともに変わっていくこともあるのでしょうね。

よく似た外観をもつ、白い斑が緑の葉に入った、Variegated Yellow Archangel(斑入りイエロー・アーチエンジェル)があります。これは、園芸用に交配された種類ですが、種があちこちに飛んで簡単に増えていくので、庭や公園を越えて野性化しているそうです。野草保護団体の一つ、Plantlifeが、他の野草を侵害する植物として警告しています。(1981年に発布された英国の野性生物および田園地帯に関わる法令の中にあると書いてあるのですが、見つけられませんでした)

我が家の近くに、数十年前まで石灰石の採石場だった場所にできた公園があります。さまざまな草木が茂る、緑豊かな公園ですが、興味深いことに、イエロー・アーチエンジェルや、5月に紹介した、ハーブ・パリスなどは、まったく見かけません。

大昔に誕生した小さな森が、長い時間をかけてさまざまな植物や動物たちが加わったり、消えていったりしながら、現在の森を作り上げてきたわけです。その中でイエロー・アーチエンジェルは、古代の森の証となる植物と言われているのは、ずっと昔から、森と一緒に生存してきたからでしょうね。




2015年4月30日木曜日

皐月ー5月:ハーブ・パリス  Herb-Paris: May 2015

皐月ー5月:ハーブ・パリス

森の湿地に今も咲く古代花 

(Paris Quadrifolia, Herb-Paris,  Order: Liliales , Family: Melanthiaceae, Genus: Paris)

(ユリ目、メランチウム科、パリス属)



ハーブ・パリス。名前だけでなく、その姿も初夏の森の中でひときわ目立ちます。実は、森がどれほど古いかを推測する指標となる植物だそうです。ハーブ・パリスが生える森は、古代から現代に至るまでほとんど環境が保持されて残っている貴重な森なのです。

というようなことを、実は、4、5年前、友人とThe Woodland Trustが管理する森を歩いていた時、犬を連れた紳士と初めて出くわした時に、森についていろいろ話してくれた時に聞いたのです。私のブログに以前にも数回登場した、森に関するメンターのような存在の紳士です。(かれもボランティアで森再生プロジェクトに関与したことがあるそうです)

「あなたたち、これからGorge (ゴージ:谷間、ここでは丘と丘の間に小川の流れている湿った地帯)の方を歩いていくなら、一風変わった花を見つけられるかもしれないよ。この季節、数週間だけ咲くのだが、奇妙なことに、ほんのわずかな地帯にだけ、毎年群生するんだ。ハーブ・パリスって言うんだがね、葉っぱは4枚、茎の半ば辺りからまん中から外に向かって生えている。花っていうのが、これがまた変わっていて、花という感じじゃない。花っていう感じじゃない、という植物を探してごらんなさい。それが、ハーブ・パリスだから」

それから、私たちはおもむろに、陽当たりのよい原っぱを過ぎ、森の中へ足を向け、ブナの森の向こうへ歩いていった。丘と丘の間は、陽当たりが悪く、小川が流れ、一帯は、苔むしている。それでも、イングリッシュ(もとい、ウェルシュ)・ブルーベルやワイルドガーリック、ウッドアネモネが点々と咲いて、彩りをそえています。

この辺りだな。

注意深く、足をとめて眼を凝らしました。あるあるある!赤みを帯びた緑色の細い茎がまっすぐに伸び、その中間辺りから水平に放射線状に4枚の葉が生えています。そして、その上に目線を移していくと、なんとも奇妙な、一般的に花と呼ぶものとはかけ離れた頭部があります。ぴらぴら下にぶらさがっている緑のものは、萼(がく)です。その間にある(版画ではわかりにくいですが)さらに細い緑のものが花びら、なんだそうです。斜め上にぴっと伸びた槍のような黄色いものは、雄しべです。そして、まん中に鎮座する紫紺のものが、雌しべの役割をする子房(しぼう)です。

ハーブ・パリスが群生している場所は、とても限られています。10mほど歩けば、もう見当たりません。そんな矮小な場所で、ハーブ・パリスは、何百年も、ひょっとすると1000年以上もひっそりと、絶えることなく咲き続けてきたのかもしれないな、と思うと感慨深くなります。

ハーブ・パリスという名前から、何かフランスの首都に関連しているのか、と勘ぐりましたが、実は地名とは関係ありません。ラテン語の学名は、paris quadrifolia、私の拙い推測では、quadriは「4」を指し、foliaは、英語でいうところのfoliage、「葉」を指すのでしょうね。parisは、英語でequality、「均一」「均等」を意味するそうです。ハーブ・パリスは、外見からつけられた名前なのですね。

4枚の葉が、均等に外へ向かって水平についていることから、harmony、「調和」の意味合いもあって、中世時代には、おまじないやら儀式などに使われたようです。別名は、'true lover's knot'(真実の愛の絆)あるいは、 'devil in a bush'(茂みの悪魔)。深い解釈もあると思いますが、単純に訳しています。真実の愛を確かめるためのおまじないやら、魔除けに使われたんでしょうか。

ちょうど今、英国在住の日本人作家(といっても、英国に帰化した)、カズオ・イシグロの最新小説、Buried Giantを読んでいます。小説の設定が、伝説の王、キング・アーサーが亡くなった後の中世初期のイギリス本島となっています。生き別れとなった息子のいる村を訪ねてようと旅する老年の夫婦を中心に、建物も、道らしきものもない、ヒースに覆われた丘や森が果てしなく続く、当時のイギリスの風景が描かれます。魑魅魍魎がいると信じられていた頃、神秘に満ちた森を歩く人たちには、ハーブ・パリスは、時に天使のように、時には悪魔のように見えたのでしょうね。

True lover's knot、大昔からずっと変わらず生息し続けてきたことは、永遠に続く愛の絆の象徴にふさわしいです。茎がすっと空にむかって伸び、4枚の葉がまっすぐ水平に広がったハーブ・パリスの群生は、初夏の若葉がまばらに影を落とす森の中で、凛として美しく映ります。

現代の自然は、ほったらかしでは存続していけません。The Woodland Trustなどの地道な森林保全保護活動の手を借りてでも、これからもずっと変わらずに、数百年先の森の中で、毎年5月に花を咲かせて欲しいです。




2015年4月13日月曜日

イースターの月曜日に: St Bridges Majorにて散策

イースターの月曜日。久しぶりの青空、風もなく暖か。車で半時間ほど西へ行った、海に近い小さな村、St Brides Majorまで出かけました。村はずれに車を停め、丘を登っていくと、そこには壮大な風景が広がっていました。大きな木は全くなく、gorseという荒れ地によく見られるマメ科の黄色い花が一斉に咲いていました。反対側では、羊の群れがのんびりと草を食んだり、ねそべっていたりしていました。この春に生まれたばかりの子羊たちも。


丘をぐるりと歩くと、下り坂に。要所ごとにウォーキング用のサインがあります。それに従って急な道をすべらないように気をつけて歩いていきます。


丘のふもとには、小さな川が流れています。小川というにはちょっと大きく、川というには小さめかというサイズ。途中に、分岐路があるのですが、徒歩だとステッピングストーン、飛び石がある(写真左から斜め右)のですが、車は、何と川の中を通るのです。とはいえ、川底は浅く、車が通れるように平らにしてあります。私たちが見ている間に数台が通り抜けましたが、ほんの少しちゅうちょした後、えいやっとばかりにエンジンをふかして向こう岸へ渡っていきました。

右端にいる女性は、水から十分離れてなかったばかりに、足元がびしょぬれになりました。犬くんは、おかまいなしに川の中をじゃぶじゃぶと走り回っていました。何せ、久しぶりのお天気で、おまけに風もなくあったかかったのですから。


川沿いの道には、2か所、石造りの鉄橋がありました。その下を、ポニーに乗った女の子が、お母さんとおしゃべりしながらのんびり通り過ぎました。


この川には、もう一つ向こう岸に渡れる橋があります。Clapper Bridgeと呼ばれ、アーチ型や吊り橋などができる以前に使われた古いタイプだそうです。どのくらい古いかは不明ですが、昔は、周辺の村の住民が生活のために使ったのでしょうね。


川から逸れて、村の方へ戻る途中に、自然保全地域があります。スイセンやウッドアネモネ(3月のカレンダーに登場)が自生しています。スイセンは、もう盛りを過ぎていましたが、ウッドアネモネの白い花があちこちに咲いていました。


自然保全地域が終わると、生け垣に両面囲まれた農道になります。途中で、乗馬クラブのグループとすれ違いました。一人一人が、「待ってくれてありがとう」と良いながら通りすぎていきました。10人以上はいたでしょう。

彼らが過ぎていった後、ふと傍らを見ると、「卵売ります」のサインが。そこには小さな石造りのコッテージ。ちょうど卵を切らしていたところなので、卵を買おうと裏側へまわると、そこの主らしい男性がいました。

にこやかな彼は、私たちが道に迷ったのかと思ったらしいですが、卵を買いたいと言うと、ちょうど1ダースあると出してくれました。彼から1ダースの卵を買いました。1ダース、放し飼いの鶏の卵2ポンド。とってもお買い得です。卵は3種類。さまざまな色と大きさのもの。彼は、レグホン種と烏骨鶏のものだと教えてくれました。

後日、卵を食べましたが、とっても新鮮な卵で濃厚な味でした。普段でも放し飼いと書いてある卵をスーパーで買っているのですが、断然の違い。


帰路は、海辺を通って帰りました。たくさんの車と人であふれ帰った海岸を横目に通り過ぎました。私たちの歩いた道では、ほんの数グループとすれ違っただけ。みんな、短くとも「ハロー」と挨拶を交わしました。その他は、さえずる小鳥たちの声、小川のせせらぎだけ。

2015年4月1日水曜日

卯月ー4月:ウッドアネモネ Wood Anemone: April 2015

卯月ー4月:ウッドアネモネ・ヤブイチゲ

白くきらめく風の花 


(Anemone nemorosa, Windflower, Buttercup family)
(キンポウゲ科 イチリンソウ属)


変わりやすい春のお天気。明るい晴天の朝を迎えても、彼方にみじんの雲も見えなかったのに、お昼ころになると、にわかに空がかき曇り、肌寒い風が吹いてきたかと思うと、通り雨、時にはアラレも混じることもあります。

4月に入ると、それでも日射しは日ごとに強くなり、日も長くなってきて、春も盛りに入ったことを感じます。

お気に入りの森へ踏み入れると、ブナの木が主に生える、その足元に点々と白い花が目につきます。さらに歩いていくと、あちらこちらに、白い可憐な花びらを一面に敷いたような場所に出くわします。可憐な花が、じゅうたんを敷き詰めたように咲き乱れる様は、幻想的です。

たまに、霧雨の中を歩くことがあります。風もなく、霧のように細かい雨粒が自分の周りを取り巻きます。繊細な白い花、葉っぱにも細かい雨粒が降り注ぎます、音もなく。

それは、ウッドアネモネ(和名:ヤブイチゲ)の花です。白い花びらは、正確には、花びらではなく、萼片(がくへん)と呼ばれるものです。

ウッドアネモネの別名は、ウィンドフラワーです。そのまま日本語にすれば、風花(かざばな)ですが、風に吹かれて舞う雪、全く違うものですね。

私の手元にある、1958年に出版されたB.D. Inglis著の、『英国の野草』(Wild Flowers of Britain, Nelson出版, 1958)に、ウィンドフラワーと呼ばれる由来が書かれています。ー『ウッドアネモネの上を風が吹いた時だけ、花開くと言われている』ー 著者は、それについて、外見とは違い、むき出しの森の中で、早春の荒々しい強風の吹き荒れる気候に耐える強い野草だと書いています。キンポウゲ科の中でも弱々しく見えますが、意外と細い茎は、強風にあおられてもへし折れないほど強いのだそうです。

雪のように白い花びらが風に舞う様を想像すると、風花という名も合っているのかもしれません。でも、私が目にするウッドアネモネは、風の強い日でも、風から守られた森の中で静かに花を咲かせています。

ウッドアネモネを、インターネットで検索していたら、突然、懐かしい花の妖精のイラストが現れました。エドワード朝時代に活躍した女流画家(イラストレーター)であり、詩人でもあるC.M. Barker(シシリー・メアリー バーカー)のイラストです。(3月に紹介した、同じくエドワード朝時代の女流画家で植物研究家のEdith Holdenより少し後の時代に活躍)

大昔、私が子供のの類を買って点数を集めると、彼女の「花の妖精シリーズ」の本がもらえるという企画にまんまと乗り、1冊を手に入れたのでした。当時、洋書など目にすることなどほとんどなかったので、嬉しくて、何度もそれぞれの花の精の絵を丹念にながめたものです。幸いなことに、手元にありました。(といっても、娘が見つけ出してくれました。娘に感謝)

彼女のシリーズには四季と、さらに4種類の本があります。そして、私が持っていたのは、ばっちり「春」。その中に、ウッドアネモネの妖精の女の子と、詩(私の拙訳)があります。ここに描かれた妖精は栗色でゆるくカールしたロングヘアで、うす桃色のドレスを着たスレンダーな女の子。ウッドアネモネの多くは白ですが、うす桃色の花もあるからでしょう。ウッドアネモネの花を2輪、両手に抱えて、風が吹けば今にもダンスを始めそうな様子です。



THE SONG OF THE WINDFLOWER FAIRY
ウィンドフラワーの歌

While human-folk slumber, 人間たちがまどろむ間
The fairies espy 妖精たちは
Stars without number 数えきれないほどの星が
Sprinkling the sky. 空にちりばめられているのを見つける
The Winter's long sleeping, 冬が長い眠りについている間
Like night-time, is done; 夜の間眠るように
But day-stars are leaping でも昼間の星たちは飛び跳ねてる
To welcome the sun. お日さまを歓迎したいから
Star-like they sprinkle 星のように
The wildwood with light; 荒々しい森に光をちりばめる
Countless they twinkle- 数えきれないほど
The Windflowers white! ウィンドフラワーの白がきらめく!


(Flower Fairies of the Spring, Cicely Mary Barker)
(春の花精より シシリー・メアリー・バーカー、1923)


まもなく、白い星のようにまたたくウッドアネモネが、森の中にいっぱい見られるでしょう。







2015年3月1日日曜日

弥生ー3月:春を告げるプリムラ Primrose March 2015

弥生ー2月:プリムラ・ブルガリス
March: Primrose

野性のプリムラ


(Primula vulgaris, Primulaceae family)
(サクラソウ科 サクラソウ属)




最初に、野性のプリムラを見つけたのは、ずいぶん前、スイスか、南ドイツの黒い森地帯の森を歩いていた時です。日本で見知ったプリムラは、ピンク、赤、紫、まっ黄色などの原色まぶしい花を咲かせていたし、公園や庭先でしか見かけたことがなかったので、意外でした。日陰でひっそりと、淡いクリーム色の小さな花を咲かせるプリムラ、早春に彩りを与えてくれるのです。

英国ウェールズへ住み始めてからも、早春になると、森の中や、ちょっとした野原の片隅などでプリムラを見つけるのが楽しみになりました。

このブログを書き始めて、カレンダーに載せた植物について調べるようになりました。今回も、意外な発見がありました。私の持っている古い植物の本、Wild Flowers of Britain (B.D. Inglis, 1958, Nelson)、この中のイラストで気づきました。

花のタイプには、2種類あるのです。花弁も葉っぱも変わりません。が、雄しべと雌しべのつき方が微妙に違うのです。全く気づかなかったとは! 自分の撮った写真をいろいろ見てみると、本当に違うのです。まん中の部分が、丸く平たい待ち針のように見える'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプがあります。これは、雌しべが花弁の所にまで出てきて、花粉のついた雄しべは見えません。もう一つは、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ。花粉のついた雄しべが上の方にあり、雌しべは下部にあって見えません。

同じタイプ間では交配ができず、この異なった2タイプの花の間で交配が行われるそうです。それを担うのは、花蜜を求めてやってくる昆虫。

プリムラの花蜜は花弁の底にあります。針の目タイプの蜜にありつくには、蝶などの昆虫が、ストローのような口吻(こうふん)を伸ばさないといけません。その際、花弁の半ばあたりにある雄しべの花粉に触れます。花粉のついた口吻、昆虫ですから、ぬぐうこともせずに、近くにある、'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプの花へ移って、花蜜を吸いに行きます。当然のことながら、もう一方の花粉をつけてきた口吻で吸いますから、花弁の半ばにある雌しべにもう一方の花粉をつけることになります。蝶などの昆虫たちは、あっちへ飛び、こっちへ飛びしますから、そのうちに両方のタイプの花の受粉が完了するという訳です。


'Pin-eyed'(平たいまち針の頭)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雌しべ

'Thrum-eyed'(毛のような粉のようなものが花冠のまん中に見える)タイプ
花弁のまん中に見えるのは、雄しべ

これらについての詳細な説明は、東デヴォンにある Offwell Woodland and Wildlife Trust、 ウェールズにあるFirst Natureの2つのウェブサイトに掲載されています。(でも、写真は、私所有のものです)

花について、かなり熱っぽく、長々と書いてしまいました。

ようやく葉について。野性のものは、小型で、葉の長さも10センチから15センチくらい。鮮やかな濃い緑の白菜のように、しわが深く入り込んでいます。なんだか食べられそうでしょう。私は試したことがありませんが、ほんのり甘味があって、もちろん食べられるようです。The Hedgerow Handbook: Recipes, Remedies and Rituals (Adele Nozendar著, Square Peg社, 2012)という本の中に、葉を使った面白いレシピがあります。

材料は、水1.7ℓ、砂糖300g、プリムラの葉500g、イースト10gだけ。イーストというのだから、発酵させます。何だかわかりますか? お酒ではありません。お酢、です。仕込んでから1か月半かかってようやく使用できるそうです。

きのこ以外の野性の植物なら、何でも試してみたい私ですが、これは想像だけにとどめておきます。プリムラの葉、500gというのはかなりの量です。森などに点在するプリムラをむやみやたらに採取したくないのです。でも、たくさん採っても困らない、例えばイラクサの葉などで試してみるのも良いかも。

凹凸のはっきりした葉、これを更に近づいてみると、さらに細かな葉脈が縦横に走っています。花の方は、ナメクジやカタツムリなどに食べられた跡を見かけても、葉の方は見たことありません。このでこぼこは、食べられないようにするためにあるのかもしれないですね。

3月に入ると、プリムラのクリーム色の花は、いち早く春の雰囲気を醸し出してくれるのです。